今回の気ままレビューはたなかのか先生の「タビと道づれ」
舞台は外部から隔絶されて時間をループし続ける町・緒道(尾道がモデル?)
外への繋がりを拒否する「路」。町は「路」に遮断されていて出ることができない。
外部と遮断された場所を通り抜ける手がかり、「テガタ」。
「テガタ」を持つもの・「セキモリ」のみが「路」を通ることを許された世界。
物語は心を閉ざした少女・タビがこの閉ざされた町にやってくることから始まります。
(1)わたしが私じゃなかったらよかったのに少女・タビは自分が嫌いだった。一人では何も出来ない無力な自分が。
そして彼女は他人との繋がりを恐れ、逃げていた。
どうせやっても無駄だろう――
諦めと繋がりへの未知の恐怖が彼女の世界を閉ざしていった。
少年・ユキタも同じだった。タビと話し合うのが、一歩踏み出すのが怖かった。
その結果、彼女のプライバシーを覗くことで外に出るための新たな手がかりを得ようとするユキタ。
それを見た警官・ニシムラさんは彼を諭す
「何のために口はついていると思ってるの?」直接聞いたらいいでしょう。
何のために耳はあるの? ――ここにいたらタビ君が呼ぶ声も聞こえないよ?諭されたユキタはタビの元へ向かっていく
一方タビは「路」に落ちそうになっていた。そして自分の無力さを恨んだ。
――足りない腕力 足りない頭 そう わたしが私じゃなかったらよかったのにああ…これで終わり あきらめなくちゃ 「わたし」独りではもうどうにもならないなら――
あきらめかけたタビを掴んだのはユキタの手だった。
何が「わたしが私じゃなかったら」だ
お前が唯一の手がかりなんだからお前がお前じゃなくなると意味ないんだよ! タビ!
――腕が足りないならいつでも貸すから 呼べっつーの
――わたしはわたしが 私でもいい?初めて聞く自分への肯定
独りだったタビの世界が、無力な自分を否定して逃げていた自分が変わってゆく
(2)わけるから友達なのユキタに心を開き始めたタビだったが、何処からが友達か分からないと言う。
それに対してユキタはアイスを二つに分けて応える
同じアイスをわけあったら「友達」だ!わけあうこと。それは友達への第一歩だった。
あるとき、タビは一つの動くぬいぐるみと出会う。
彼の名はトト。タビと同じくテガタを持つセキモリだった。
驚くあまり、トトを拒絶してしまったタビは、トトの「路」に拒絶されてしまう。
謝るだけで悶々とするタビにユキタの、「これから友達になれば済む話だろう」という助言に、タビは友達になろうと声を出す。
トトの路に受け入れられた時、思わず出た言葉――
ありがとう言えそうで言い出せなかった感謝の言葉。言葉がタビとユキタの繋がりをまた深めていく。
トトに案内された先、タビたちが見たものは、閉じ込められた子供達――
トトは話し出す。トトは人間と友達だった。人間は言った。
「友達はずっと一緒にいなきゃいけないんだよ」――と
でも、人間の友達に人間の友達が出来たとき、トトは押入れに一人ぼっちになっていた…。
だから自分と同じように子供達を一緒に押入れの中に閉じ込めた。
友達はずっと一緒にいなきゃいけないから――
そんなトトにタビは言う
わけるから友達なの わけるとお互い両方に半分ずつ残るから アイスも言葉も
お互いわけあって同じものでつながるから 離れてても大丈夫なの
閉じ込めなくても大丈夫なんだよ
わけてあげようとしても いらないと言われるかもしれない
それは怖い 怖いけど―― 一緒に頑張ろうタビは気付く。人間が言葉を作ったのは体を超えて想いをわけあうため
人間が進化したのは独りぼっちになりたいからじゃない。わけあいたいのだ、と
人の繋がり、心の世界を柔らかなタッチで描いた「タビと道づれ」。
閉ざされた世界≒心を閉ざした人の世界を舞台にしたタビたちの成長の物語、是非ご覧ください。